1話 小話



子供の名前を決める前に、飯の菜を決めよう!

※色々ツッコミ所満載の小話っていうか、小ネタか。許容できる方はお願いします。
     ・きく婆が千雨さんの出自について知りすぎている
     ・え、結構なネタばれしてません? 本編と人物の呼び名違うかもよ(調べてない←
     ・作者の雪村さん贔屓もいい加減にしろ主人公を出せ
1話最後の方に出てきた、雪村、小平次、きく婆の大人トークです。べつにえろくないよ←当たり前だ阿呆め
「センと夕凪が結婚して子供が出来たらどんな名前にするっ!? きゃっきゃっ!」みたいな話です。
……相変わらず前口上が長いですね! それではどうぞ!


「千雨さまと夕凪さんが夫婦になって、お子が生まれたら、それは可愛い子でしょうねえ」
 小平次がにっこりと笑う。その笑顔は、空にその子の姿を見ているようである。
「そりゃァ、当たり前だよォ、小平次さん。手前ェ味噌だが、お夕は都娘にも負けねェって思ってるし、センさんはなんたって、男前だもの。なァ、雪村様」
きく婆も鼻息荒く、胸を張る。雪村がくす、と笑い口元に手をやる。
「確かに、夕凪は可愛らしい娘だ。鄙にいる分、都の娘子たちより素直だし」
「そうですかァ? お夕は気ぃ強い子だと思うけどなァ」
今まで一度も村を出たことがないきく婆は、ふむと首をひねった。
「いや、そういう意味じゃ夕凪ほどの娘はなかなかいないが……ふむ、ふたりの子か。どんな名前が良いだろうか」
 雪村がくちびるをなぞり、思案顔になった。
「千雨さまの子には、頭に千の字がつかなければならなかった気がするんんですが」
小平次が問う。
「なんでェ?」
きく婆が不思議そうに小平次と雪村を見た。雪村は首を振る。
「いや、千雨は次男坊だから、別に構わなかった気がする。千の字を冠するのは総領の子だけだ」
「そうでしたか、じゃあ、幅が広がりますねぇ」
小平次は嬉しそうに笑った。
「千雨さまと夕凪さんですから……一番かんたんに考えると、千凪なんてどうでしょう」
「いんや、夕に雨と書いて“ゆう”が良いんじゃなかろうか。お夕雨さァ」
「おきくさん、それじゃあ、夕凪さんと呼び名が被ってしまいますよ。そうだなあ、別におふたりの名前から一字ずつ取らないといけないわけではないですし」
「それも、そうだねェ」
きく婆と小平次はわいわいと楽しそうに話している。
「雪村さん、どうかしましたか?」
 ぷっつりと喋らなくなった雪村を不審に思ったのか、小平次が声をかける。途端――。
 ぐぅ、と腹が鳴った。雪村の、腹が鳴った。
「……」
小平次の顔が強張り、きく婆は思わず雪村の顔を見上げた。
「……すまん」
雪村は腹をさすり、小鼻を掻いた。表情は相変わらず涼しげだが、うっすら頬が赤い。
「先に帰って、飯の支度をします」
 早足で行こうとする小平次を雪村は呼びとめる。
「いや、いい。せっかく子の名のことで盛り上がっているんだ。それに私は大人だ、少し腹が減ったのくらい我慢できる」
「そ、そうですか、そうですよね」
「そォだよォ、食いしん坊でもあるめェし」
そういうわけで、三人は再び歩き始めた。
「子ォが生まれる季節で名前を付けても良いと思うなァ」
 しばらくしてきく婆がぱっと顔を輝かせた。小平次も微笑む。
「弥生さんとか五月さんとか、可愛らしいですよねぇ」
「男の子だったら、どうしようかねェ……ねェ、雪村様?」
「うなぎ」
ぐうと雪村の腹が鳴った。
「……は?」
と言ったのは小平次ときく婆、どちらだろうか。
 雪村がはっと表情を改める。
「い、いや、あの、千雨の雨と夕凪の凪を取って、雨凪はどうかなと思っただけだ、断じて鰻が食いたいと思ったわけではない」
言い切った雪村をあざ笑うかのように、また腹が鳴った。雪村はたまらなくなったのか、手で顔を覆った。
「気に、するな」
「いえ、急いで帰って飯の支度をしてきますっ!」
小平次は老爺とは思えない機敏な動きで森を駆けて、詰め所を目指した。
「鰻はねェけどォ、さっき魚をもらったから、食べてくれなァ、雪村様、届けるから」
「……すまん」
きく婆もそそくさと雪村の元を離れていった。
 顔を覆い、腹をさする雪村の耳が赤く染まっていた。
「腹が、減ったな」
己以外だれもいなくなった森で、雪村はぽつりと本音を漏らした。

おわり

最初はほのぼのと3人が子供の名前の話をしているだけだったのに……っ!
どうも小話・小ネタは雪村さんを残念にしたくなるらしいよここの作者は。
書き終わってから思うんですけど、なんだか小話の中で雪村さんがすごく食い意地張っている人みたいになっている(苦笑) もうひとつの小話でもあれだし;;
まあいいです、作者がとっても楽しかったもの!
下らない小話に付き合って頂きありがとうございました!





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