暮れ間に沈む



すぐに終わる話

 ぱちりと目を開けば、徐々に眠たげな脳細胞は活性化していき、ここがどこだかわかる。あぁ、そうだ。ここは、違う世界なんだ。そう思うとなんだか感慨深くて、周りを見回してみるが、辺りはただ薄暗いだけの草原で特に前までいた世界と変わるところはない。
 何日か前に読んだオンライン小説の世界にひどく憧れ、その世界へ行くことを強く望んだ。その世界とはつまり、この世界だ。ここでは化物が大口を開け襲いかかってきて、それを斬り斃す人間がいる。なんてスリリングで格好いい世界だろう。
 強く望んだ結果、どういうわけか本当に違う世界に来ることができた。これこそ、小説のようじゃないかと思う。
 せっかく憧れの世界に来たのだから、どこか、歩いてみよう。ガザガザと叫びながら折れる雑草を踏み倒しながら歩くが、どうもトキメキがない。小説ではこの辺で誰かに会ったり化物に襲われたりするはずだ。
 そのとき、ぐぴゃーっ! と大きな声を出して化物が襲ってきた。まぁ、これは驚いた。化物は青い毛をした大きな猫だ。大人三人分くらいの大きさはゆうにある。あと、体のわりに異様に長い牙を持っていて、よだれだか何だかでぬらぬらと光る牙は、不気味だ。ああぁ、怖い。ガタガタと、震えてしまうじゃないか。
 青い化け猫が牙をむき出しに、襲いかかってくる。小説ではここで間一髪、化け猫をばっさり斬り捨てる人間が現れるはずなのだが、あれ?
 現れなかった。青い奴の牙が腹をぐっさりと抉る。これは、痛い。
 どうして斬り人が現れなかったのだろうか。小説なら、ここから物語が始まるはずなのに。……あぁ、ヤバイ。どんどん目の前が暗くなっていく。血がどばどば出ていく。

 ……――――――――……。あぁ、そうか。どうして斬り人が現れなかったのか、わかった。
 これが、小説ではなくて、現実だからだ。

 それと、もうひとつだけ。
 人生、これで、おしまい。

   すぐに終わる話…おわり



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